ダイドーグループホールディングス株式会社

社外取締役からの提言

社外取締役が語る海外飲料事業の成長とガバナンス

左:社外取締役 井上 正隆  右:社外取締役 伊藤 三奈

海外飲料事業における今後の期待や課題感について、社外取締役の井上正隆氏と、2024年4月に社外取締役に就任した伊藤三奈氏が対談を行いました。

社外取締役としてのご自身の役割

—伊藤取締役は2024年に当社の社外取締役に就任されました。お引き受けされた理由をお聞かせください。

私は、国際畑の弁護士・ビジネスアドバイザーとして米国・アジア・欧州、そして直近では、中東アフリカに駐在し、企業の海外展開を支援してきました。実は、DyDoグループが2016年にトルコに進出したことは、国際ビジネスの事例として以前から注目しており、ニッチマーケットへの果敢な挑戦に、非常に興味を持っていました。そのような中で、DyDoグループから社外取締役就任の打診をいただき、髙松社長ともお話をする機会があり、新たにポーランド市場へ進出することや、「海外での事業展開の拡大」をはじめとしたグループミッション2030の3つの基本方針への思いや達成に向けた意気込みを伺い、社外取締役の役割をお受けすることを決めました。これから、国際法務での30年にわたる弁護士活動や新規事業の実行支援の経験を生かし、当社の成長と挑戦を支援していきたいと考えています。

—井上取締役は長年、当社社外取締役をされていますが、どのような考えを持って監督されているでしょうか。

社外取締役として、私は、「企業経営とは正しいことを正しく行うこと」という信念のもと監督しています。ここでいう「正しいこと」とは、株主利益の増大と持続的な成長を実現することです。また、「正しく行うこと」とは、株主利益を損なうリスクを適切に管理し、効果的な事業活動を行うことを意味しています。当社では、持続的な成長に向け、コア事業である自販機ビジネスの拡大を通じてキャッシュ・フローを生み出し、それを海外飲料事業や非飲料事業といった成長領域への投資に充て、将来の新たな収益の柱をつくることをめざしています。国内の自販機市場はすでに飽和状態ですが、例えば、当社の強みであるスマート・オペレーションを磨くことは、効率化によるコスト低減や人財不足への対策だけでなく、環境面などSDGsの観点で社会に大きく貢献するものであり、私の信念とも合致するものであると考えています。

海外飲料事業の展開と現地企業のガバナンス

—成長分野である海外飲料事業について、どのように考えているでしょうか。

今後は海外飲料事業が大きな柱になっていくと考えています。過去には撤退した地域もありましたが、その失敗から学び、現在はトルコで事業が成長しています。海外飲料事業の推進には、まずは海外に進出する意味やビジョンを明確にする戦略意識を持つことが大切です。ポーランドへの進出に際しては、髙松社長から「これを足がかりに欧州市場で事業基盤を構築していく」という強い決意を伺い、賛同しました。近いうちに、未来に向けた方向性を明確にした事業計画が出てくることを期待しています。

多くの企業の海外進出を支援してきて、どの企業にも失敗はありますが、「失敗から学べ」をいかに実行できているかが成功の鍵になります。失敗を振り返る際は、その内容を踏まえて、投資戦略、投資基準、撤退基準を策定することも大切ですよね。また、その過程では自ずと海外進出の意義に立ち戻って考える必要性が出てきます。それにより、メンバーの意識改革や意欲向上につながるほか、策定した基準内であれば一定の安心感を持って果敢に挑戦していける、という好循環が生まれると考えています。

確かにそうですね。当社の場合、この辺りにまだ課題が残っていると感じています。投資基準を設定する際には、単一の投資案件の利回りだけでなく、その投資が企業全体の資本収益性に及ぼす影響を考慮して設定する必要があります。また、明確な基準がなければ、事業の撤退を決断することは非常に困難です。当社では、個別案件ごとにあらかじめ目標を設定し、それを達成できなければ撤退する、ということが徐々にできるようになってきてはいますが、より厳格に、統一した基準を設ける必要があると考えています。

—海外展開後には現地子会社のガバナンスも重要です。これについて、考えをお聞かせください。

ガバナンスにおいては、ビジョンの共有を具体的な話し合いを通じて実施することが重要です。まずは現地の経営陣と事業の方向性について議論し、意思統一を図る必要があります。次に株主価値を毀損するリスクを回避するため、「不正・事故による損失の防止」に注力します。大切なのは、不正や事故を起こさせない企業風土の醸成やルールの徹底、そして監査の仕組みです。核になるのは現地経営陣の行動を規制する権限規程です。さらに、これに横串を通す形で、重要機能についてホールディングスとしての考え方を明確に示し、子会社はそれに従ってルールやフローを策定することが重要です。例えば、品質保証の観点では、国ごとに異なる法や文化を超えて「業界の一歩先を行く安全・安心をめざす」のように、方針を決めておきます。こうすることで、様々な国に展開しても、DyDoグループとして一貫した姿勢を保つことができます。現在、DyDoグループでは規程の見直しに着手しています。重要機能における考え方を定めて子会社に適用し、ホールディングスはその支援と牽制を行っていきます。

海外子会社におけるリスクには、日々の業務から発生しうる労務、会計不正、横領、債権回収、サイバー犯罪、営業秘密の漏洩などの問題から、競争法違反(カルテル)や贈収賄など巨額の制裁金が課されるものがあります。不正防止に最も重要なのは、「不正は許さない」という経営層の明確な姿勢が現場まで徹底されることです。また、内部監査を通じた現地担当者との対話や、現地経営陣との経営目標の共有およびフィードバックなど、人と人の信頼関係を築くことも大切です。国内における風通しの良い風土を海外子会社管理にも生かし、ルールの制定やコンプライアンス体制の構築を進めてほしいと思います。次の時代の大きな柱の一つとなる海外飲料事業において、社外取締役として成長戦略とガバナンスの両輪を回す手助けをしていきたいと考えています。